「相続分の譲渡」を使って、争族からの卒業!

 実家である自宅兼店舗で商売を営んでいた父が死亡し、遺産は実家の土地建物だけです。

長男である兄が父と同居していて商売を手伝い、家業を継いでいくこととなります。

次男である私は、長男が実家の土地建物を取得することに異存は有りません。

しかし、三男が反対しており遺産分割協議がまとまるには時間がかかりそうです。

私の相続分を兄に譲渡して、相続争いから離脱したいと考えていますがどうすればよいでしょうか。

 

 

<書式>相談事例のとおり、次男△△より長男××に対し相続分の全部譲渡が行われた場合

 

             相続分譲渡証書

 

 被相続人〇〇(  年 月 日死亡)の相続人△△は、その相続分全部を相続人××に譲渡し、××はこれを譲り受けました。

 

年 月 日

 

             住所

             譲渡人  △△  ㊞

 

             住所

             譲受人  ××  ㊞

 

譲渡人は実印で押印の上、印鑑証明書を添付する。

 

 

 

 

<書式>相続分の譲渡が行われたことを他の共同相続人(三男□□)に通知する書面

 

 

年 月 日

住所

□□

             相続分譲渡通知書

 

                     住所

                     譲渡人  △△  ㊞

 

△△は、  年 月 日、被相続人〇〇相続財産の私の相続分全部を下記長兄に譲渡しましたので、お知らせします。

長兄は、遺産である店舗兼住居において、引き続き家業を継いでいかなくてはなりませんし、亡き父の介護に努めたことに感謝し、私の相続分の全てを長兄に譲渡した次第です。

 以後、遺産分割協議などは、円満に長兄と協議してください。

 

    住所

    譲受人  ××  

以上

 

共同相続人に対する相続分の譲渡では譲渡通知は不要と解されますが、紛争が予想される場合には配達証明付き内容証明郵便で通知しておいた方が良いでしょう。

 

 

相続分の譲渡とは・・・

 相続分の譲渡とは、積極財産(プラスの財産)のみならず消極財産(借金などのマイナス財産)をも含んだ包括的な相続財産全体に対して各相続人が有する持分あるいは法律上の地位の移転をいうとされています。遺産の中の特定の財産又は権利に対する持分の譲渡ではありませんので、混同しないでください。

 自己の相続分を遺産分割の前に、他の相続人又は第三者に譲渡(売買又は贈与)する方法で、これにより相続分の全部を譲渡した譲渡人は相続人としての地位から外れ、遺産分割協議に加わる必要が無くなります。相続分の全部でなくても、自己の相続分の半分など一部譲渡も可能です。

 また、譲渡人が相続分を全部譲渡した場合、遺産分割協議に参加する資格を失いますが、家庭裁判所で行う相続放棄とは異なり、相続人として債権者に対しては相続債務を免れることができるわけではありません。

 一方、譲受人は、相続人でない第三者であっても、相続人の地位を得ることになり、相続債務を承継すると共に遺産分割協議に参加することができます。

但し、第三者に対して相続分の譲渡がなされた場合、他の共同相続人は、譲渡のときから1箇月以内であれば、その価額及び費用を償還することによって、その相続分を取り戻すことができます(民法905条1項、2項)。

 

ポイント

1)遺産分割の前に行うこと。

2)他の相続人の承認は不要

3)他の共同相続人またはそれ以外の第三者が対象

4)無償、有償は問わない

5)譲渡人も譲受人と共に債権者に対しては相続債務を免れない

 

相続分の譲渡の主な目的

特定の相続人に遺産を集中させるため

遺産の取得を望まない者や、相続争いに巻き込まれたくない者がいる場合に、

それらの者を遺産分割手続から脱退させ、紛争の効率的な解決を図るため

自己の相続分を有償で譲渡し、遺産分割の終了を待たずに、自己の相続分に

見合う金銭等の経済的利益を先に取得するため

内縁の配偶者などの第三者に対し相続分を譲渡することにより、第三者を遺

産分割に関与させるため

 

相続分の譲渡のメリット

相続分を他の共同相続人に譲渡をすれば、譲渡を受けた相続人に相続分が移り、譲渡をした相続人は遺産分割協議に参加する必要がなくなります。

よって、結果的に相続人が少数となり、遺産分割協議が行いやすくなるメリットがあります。

また、相続人が遠隔地にいる場合に、その相続人に相続する意思がない場合は相続分の譲渡をしてもらえば、物理的に遺産分割協議が行いやすくなります。

 

相続分の譲渡のデメリット

特に、相続分を相続人とは関係のない第三者に譲渡した場合には分割協議が大変難しくなることです。

また、家庭裁判所で行う「相続放棄」とは異なり、「相続分の譲渡」は「相続分」を譲渡するだけですので、相続分の譲渡をしても被相続人の借金について債権者から請求をされたら支払いに応じなければなりません。

したがって、相続に関して一切の権利・義務を放棄したい場合は原則どおり「相続放棄」を選択する必要があります。