亡くなった親の所有不動産に親と同居していた子供に対し、家を出た他の兄弟から賃料相当額が特別受益だとの主張がされることがあります。
結論から言うと、通常の扶養の範囲内である限り特別受益には当たりません。
しかし、家を出た兄弟達からすると、自分たちが実家を出てから親が亡くなる迄の期間について、仮に40年間あったとすると、低く見積もって家賃3万円にしてあげるので1,440万円が特別受益だとの主張をしたくなる気持ちは分かります。「自分達は毎月の家賃をせっせと払っていたのに、あいつは親元に同居して、一銭も払わずに済んだ!」と言いたくなるも仕方ありません。
親元同居と特別受益性
特定の相続人が被相続人から生前贈与などの特別な利益を受けた場合、被相続人の遺産について、他の相続人と均等な割合で遺産を相続できるとすれば、他の相続人との関係で不公平が生じます。そのため、民法903条第1項では、そのような特別な利益を遺産に持ち戻して相続分を算定する旨規定されています。
特別受益に該当するのは
①遺贈
②婚姻もしくは養子縁組のための贈与を受けた場合
③生計の資本としての贈与を受けた場合
親との同居を考えると、子は同居により、その分生活に必要な食費や居住費用などを親から贈与されていたとみることもできなくはありませんから、③生計の資本としての贈与を受けた場合に該当するかを検討します。
親が子を扶養する事は、直系血族間の扶養義務(民法877条第1項)として当然のことですので、通常は特別受益には該当しません。小遣いを貰っていたとしても、社会通念上相当といわれる金額であれば、これも扶養義務の一環として、特別受益には該当しません。
裁判所においても、同居の利益は同居の精神的負担もあるので、特別受益に当たらないと考えることが多いでしょう。単なる占有補助者に過ぎず、独立の占有権限がないから受益がないとする審判例もあります。
ただし、例えば成人になって働けるにもかかわらず、職に就かずに親に頼り切った生活を続けていたなどの特殊事情がある場合には、その生活費相当額が特別受益に該当する可能性もあります。