死亡保険金を受取人以外の者が受け取った場合の相続税非課税枠、贈与税の取扱い

 結婚前、若い頃に加入した生命保険は受取人を親としていることが多いでしょう。結婚後もそのまま受取人変更手続きをせずに被保険者本人が死亡してしまうと、保険金をめぐるおもわぬトラブルに発展してしまうリスクがあります。

 

 相談のあった事例を基にすると、生命保険契約は亡くなった相談者の夫が結婚前に契約したものであり、保険料も夫が支払っていたものの死亡保険金の受取人は夫の母親となっていました。本来であれば結婚の際に受取人を相談者である妻に変更すべきところ、手続きをしていなかった事例です。

 本来の受取人である母親が「残された妻子が受け取るべき」と言ってもらえたため、妻が受け取りましたが、相続税と贈与税の課税関係を整理しておく必要があります。

 

 相続税法上、生命保険の死亡保険金は原則として「受取人固有の財産」と定められています。この原則に従う限り、名義上の受取人である母親が「残された妻子が受け取るべき」として保険金をそのまま渡しても、母親に保険金が支払われた時点で相続税が、さらに母親から妻に渡された時点で贈与税がかかり、結果として二重の税金が発生してしまうことになることが原則と言えます。

 

 しかし実際には、保険金受取人以外の者が現実に保険金を取得している場合において、保険金受取人の変更の手続がなされていなかったことにつきやむを得ない事情があると認められる場合など、現実に保険金を取得した者がその保険金を取得することについて相当な理由があると認められるときは、実際に保険金を受け取った者を「保険金受取人」とすることが認められています(相続税法基本通達3-12)。

 

 受取人変更を怠った理由が、うっかりによる失念でも、やむを得ない事情として認められる扱いではあるので、この場合贈与税はかからないこととなります。もちろん相続税はかかることにはなりますが、「法定相続人の数×500万円」という生命保険の非課税枠の特例はちゃんと使えます。

 

 それでも、こうした救済策を受けられるからといって、受取人の変更手続きをしなくてもよいという事ではないので注意が必要です。

 

 そもそも、受取人の変更が認められるには、先の例でいうと契約上の受取人である母親が同意しているなど、「関係者全員の合意がある」ことが前提となります。つまり嫁姑の折り合いが悪いケースや、離婚した前妻から現在の妻に受取人変更をしていなかったケースではトラブルになる可能性が非常に高い事は容易に想像できますので十分注意が必要です。